北杜に泊まれば、山歩きの時間がこんなにもゆったりになる。夕焼けに染まる山並みを眺めながら静かな時間に浸り、翌朝は宿の窓から峰々を眺めながらコーヒーを飲み、天気を確認してから登山口へ向かう。車での移動は短く、余裕をもって山道に足を踏み入れられる。日帰りでは味わえない、贅沢な時間の使い方だ。
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北杜に泊まるなら、メインの山行の前後に、半日で楽しめる低山もおすすめ。まずは、須玉町の斑山(まだらやま)。尾根道を歩くと、八ヶ岳や甲斐駒ヶ岳、瑞牆山、金峰山、茅ヶ岳が一望でき、麓の街並みも見渡せる。「ほくとの里山」を体感できる景色だ。尾根道は整備されて歩きやすく、春には柔らかな光が差し込み、登山道脇のミツバツツジが咲き誇る。尾根を歩きながら、北杜の空の広さや里山の豊かさを実感できる。


長野県との県境にある横尾山(よこおさん)は、登山口から約1時間で天空の草原(カヤトの原)に到達する。360度のパノラマが広がり、思わず立ち止まって見入ってしまう。瑞牆山や金峰山だけでなく、富士山、茅ヶ岳、北岳をはじめとした南アルプス、御嶽山、八ヶ岳、浅間山まで見渡せる。こちらも春にはレンゲツツジやアヤメなど、季節の花々や草原の緑を楽しむことができる。


南アルプスを大迫力で望みたいなら、白州町の中山(なかやま)。中山峠からわずか35分ほどで、目の前に広がる甲斐駒ヶ岳や鳳凰三山の大迫力に圧倒される。富士山や八ヶ岳、金峰山も360度のパノラマで展開し、里山ながらも山の雄大さを存分に味わえる。頂上でさわやかな風に吹かれながら、静かな山の空気を胸いっぱい吸い込む時間は、北杜に泊まったからこそ味わえる贅沢だ。

少し北杜から足を伸ばせば、飯盛山(めしもりやま)も魅力的だ。その名の通りお碗に丸く盛られたご飯のような形がなんとも愛らしい。平沢峠からは眼前に迫力ある八ヶ岳が広がり、歩き出すと野辺山のレタス畑や近頃アニメで話題になった国立天文台も眼下に見える。7月中旬には、山頂から振り返る斜面一面に広がるニッコウキスゲが圧巻。黄色に輝く山の斜面を見て、思わず歓声を上げたくなる。短い登山でも、こんなに景色の感動を味わえるのが嬉しい。


北杜には、知られざる魅力にあふれた低山がまだまだたくさんある。知っていてもつい後回しにしてしまう山も、北杜に泊まったからこそ生まれる余白の時間を使って歩いてみると、その魅力に触れられる。ここで紹介した山は、冬でも深い雪に覆われることは少なく、チェーンスパイクやストックなどの装備で登れるため、冬山デビューにもおすすめだ。短い時間の山歩きでも、見晴らしや季節の移ろい、自然の美しさを存分に楽しめるのが、北杜の低山の魅力である。
北杜に泊まり、ほんの数時間の山歩きで、低山の魅力を探ってみよう。
文 / 高橋 知砂